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紙葉が辿った運命

レオナルドの遺産-第01講-

絵画作品などがごくわずかな数しか無い一方で、レオナルドが紙に記したメモやスケッチは膨大な数にのぼる。それらのなかには、複数の図版をまとめて一枚の紙葉に貼り付けたものもあったりするので、総点数は数え方によって左右される。同様に、紙葉の点数も、純粋なデッサンだけの紙葉を含めるのか、あるいは何か文字による書き込みがあれば「ノート」とみなすのかによっても数え方に差が生じる。結局のところ、前者(広義)で約4000枚、後者(狭義)だと約3500といったところか。そして紙葉の多くには表(recto)だけでなく裏(verso)にも書き込みがあるものも多いので、その数をあわせると約5000~6000ページにのぼる。

それらはすべて、レオナルドの遺言書によって弟子フランチェスコ・メルツィの手に渡った。彼はそれらを宝物のように丁重に扱ったが、1570年にフランチェスコが世を去ってから散逸が始まった。メルツィ家の家庭教師ダーソラが13冊の手稿を盗み出し、さらにスペインの彫刻家ポンペオ・レオーニが相当数の手稿をメルツィ家から入手した。レオーニはそれらの手稿を勝手に切断して編集し、スペイン王に売ろうとして失敗に終わる。その後は様々な所有者の手を渡っていくことになるが、その過程でかなりの部分が失われた。レオーニ編纂による手稿の一部は、現在マドリッドにある『マドリッド手稿 I,II』やミラノに『アトランティコ手稿』として残っている。

レオナルドのメモの文字部分は、よく知られた鏡文字によって書かれている。これは彼が左利きだからだが、判読を困難にする要因のひとつにもなっている。一方、スケッチには繊細なタッチによって丁寧に描かれた緻密なものから、大胆な速描きによるものまで様々で、一級の美的価値を有している。彼のスケッチは後世コレクションの対象となっており、現在に至るまで芸術家や画学生によって模写される生きた教材となっている。

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